≪スクロール≫
私が住んでいるマンションの裏には小さな森があった。森には鳥が住み、その鳴き声で季節を感じることができた。鶯は「初音」ともいうが、聞いていても本当に、早春の初々しい感じがする。
友人は、「鳥の声で目覚めるなんて、優雅な朝やねぇ」と羨ましがった。
ところが、昨秋、突然(もちろん、私の許可がいるはずもないが)森の木々は切り落とされて宅地になり、今では、新たな住人の入居も始まった。
新たな、というのは、先住者は鳥たちだからである。
高齢の母は、「あの子(鳥)たちは、行くところがあるかしら」と心配し(自分の体調のほうが心配だが)、私は、「鳥は翼があるから、自由に相応しい居場所へ飛んで引っ越すでしょう」と気楽に言った。
そして、また、春。新米の、ヘタクソな、でもタドタドしくて可愛らしい、「初音」が例年と違う方向から聞こえ、春を告げてくれた。
「鳥の新居はどこかしら」と見渡しても特定できないが、その鳴き声は鳥の存在証明である。
私たちは、自分の居場所にこだわる。
相応しい場所は、その人を元気付け、落ち着くが、もし、そこに居られなくなったら、他の場所でも、≪自分の居場所≫にすればいい。
私たちはまた、変化も怖がる。
ヨーロッパのことわざに、「善へ導く天使よりも、慣れた悪魔のそばの方が居心地よく、別れられない」があるそうだが、≪その時≫が訪れたら、「エイッ」と天使の翼につかまって翔ける勇気も持ちたい。
新しい場所には、新しいエネルギーがあり、新しい出会いがある。
自分を硬直させず、自分の新しいページが開かれていくのも、生きていく上での楽しみのひとつである。
自分の中のさまざまなページが拡がり、より豊かな自分になって生きたい。
※スクロールとは、パソコン用語で、表示される情報の大きさがウィンドウの大きさを超えてしまった場合に、表示内容を上下左右に移動させること。(All Aboutより)
2010年4月1日
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[皆既日食]
ヨーガの一番の目的は、心が変化することです。自然との一体感や宇宙意識の体験は、その人の内面を深め、その後の人生を豊かにします。