統合医療への道④
藤田正直先生の眼差し「がんを愛する…」
人間医学社時代に忘れてはいけない想い出があった。藤田正直先生との想い出である。
叔母が乳がんになった。当時の乳がん宣告は、患者や家族のとっては死の宣告であった。
手術後の体力低下を見かねて、私は東京在住の叔母と、人間医学社の大浦孝秋会長の紹介状を持って藤田正直先生を訪ねる打ち合わせをした。私は著書の『ガン治療に残された道』や『ガンの治療を見なおせ』を読み、すがる思いで新幹線に乗った。著書の表紙には、ガン治療に残された道 ガン研究一途にうち込んだ著者が成果を問う画期的健康増進療法!と、書かれていた。
藤田先生は小柄で痩せていて、誠実に対応してくれた。話の詳細は忘れたが、丁寧に説明された後、私は何故か(今思い出しても冷や汗がでるが)「ガンを愛する」と口走ってしまった。全く、若気の至りを超えた、愚かな発言である。
そんな私に藤田先生は静かに「あなたはガンを愛せるのですか?僕はまだ愛せないな…」と一言言われた。先生は怒るのでもなく、哀しみとある種寂しそうな、しかしこの病に対して凛として向かおうとする眼差しを前方に向けた。
私はこの時、自分の傲慢さを恥じた。
帰阪後、人間医学社大浦会長に報告すると、会長は「藤田先生は偉い人だ…」と沈黙した。私は改めて大浦会長を尊敬し、秘書として仕事ができる幸せを満喫した。
さて、論理の飛躍と言われるのを覚悟で、現在の私が僭越にも藤田先生の心境を推測させていただくとしたら、「ガンに合掌するこころ」であろうか。それは、「いのちに合掌するこころ」でもある。
この「こころ」は、膨大な世界に拡がりつつある統合医療の、一分野≪ヨーガ療法≫にかかわっている微力な私の、掛け替えのないバックボーンになっている。
参考文献 藤田正直著 『ガン治療に残された道』 日本文芸社, 1971.10